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Funny's Diary #004 2007.09.09

久しぶりに日記頑張った。
リトさん30点突破でファニ子バツゲーム→樟葉さんにぶん殴られるまでの流れ。



【オチが何年前のネタだよっていう】


「やったー! 目標達成っすね!」

 賭場の薄暗さには不釣合いな、少年の明るい声が木霊する。まだ少しあどけなさを残す団栗のような眼をカウンター越しの正面に捉えて、ファニィは頬杖をついたまま苦い笑みを零した。こういう相手は手玉に取りやすそうながら、時折ひどく厄介でもある。純真さを軸にした、真っ直ぐな力強さだ。

「それじゃあ、ファニィさんへのバツゲームだよね。……う~ん」

 かと思えば、ふとした拍子に意地悪く口元を歪めてもみせる。飄々とした笑みの裏に、何かとんでもないものを隠しているのかもしれない。
 そこまで考えて、自然と溜息が洩れた。物事に対して思考を深くすることは苦手だと自覚している。その反面、どうも他人の裏を読もう読もうとする癖も染み付いてしまっていた。
 樟葉と歩いたときもそうだったと回想し、肩の力を抜く。今このときぐらいは気楽に構えていても良いだろう。船に戻れば、嫌でも余計な勘繰りを巡らせることになるのだから。一度、ゆっくりと息を吐き出して気持ちの切り替えを試みる。
 盗賊風の少年──リトリー・サンタスは腕を組みながらバツゲームの考案を続けていた。
 ゆっくりと視線を左右に流す。既に今日のゲームは終了している為、参加者の大半は各々のキャンプへと帰っていた。残っている面々は退屈しのぎなのか、雑談を交わしていたり、煙草をふかしていたりと自由に過ごしている。
 そのままのペースで頭上を仰ぎ見る。視界は鈍色の金属壁から、同じ素材の天井へとスライドする。使われていない空調設備のパイプを走る鼠の足音が聞こえた。時間は島での喧騒とは正反対に、静かに、穏やかに流れていく。
 当初は刺激を求めて開いた賭場だが、こうして気の休まる瞬間も悪くないと思う。

「そうだ! 薙さんの台詞を思い出したっす!」

 ようやく何か思いついたらしい。よく通る声を張り上げるリトに反応して、名を出された青年がこちらを見遣る。口に咥えたままの煙草から煙を昇らせる男の名は、衒月薙間といった。よく煙草に関する話に花を咲かせる相手──そして今はバツゲームにより、二十歳も半ばを越えているだろう外見に反した少年の服装を身につけている、切ない境遇の者でもある。
 左右に赤と青、セロファン眼鏡越しに視線を送る薙間の表情を伺ってから、リトリーは愉快そうに一着の衣装を取り出した。
 黒い上質の生地で仕立てられた礼装……タキシードには、特に何の変哲も見られない。問題はその衣装の上に置かれた物体だった。黒縁フレームの眼鏡に模型の鼻と髭を取り付けた、よくあるパーティーグッズだ。

「みんなの前でコレ装着してヒゲダンスを希望ぉー!」

「……ヒゲダンス?」

「もちろん、ファニさんの部下の兎さんたちの分も用意しているよん」

 聞いたままの言葉を反芻し確認するファニィに対し、リトリーは大きく頷きながら満面の笑みを見せ付けてくれた。点数をつけるならば、文句無しの百点だ。無邪気さが一周して、酷く残酷なものにも見える。

(ご愁傷様)

(ソチラこそ)

 セロファン越しの視線にお悔やみを言われた気がして、同じく視線で返しておいた。実際、普段からふざけてばかりいるファニィ自身よりも、落ち着いた雰囲気を纏う薙間の現状の方が酷く悔やまれるものだった。

「あィあィ、解りマシタ。ソレじゃ、明日までに練習しておきマショ」

「楽しみにしてるっすよ~」

 フォークと蜜柑を手に笑うリトリーは、本当に楽しそうだった。その期待を煽るように、「拙者、結構ステージ慣れしてましてナ」と耳打ちをする。昔とった杵柄といっていいものか。決して人に自慢出来るような経歴でもないが、それでも相応にはこなせるだろう。
 バツゲームのはずなのに、何だか明日がとても楽しみに思えていた。どうせなら軽く期待を裏切ってやろうと、悪戯な気持ちも湧いてくる。

「姐御、そろそろ」

 部下である兎のチュンに促され、ファニィは立ち上がり、二度手を打ち鳴らした。

「あィよ。ソレじゃエヴリワン、今日はそろそろ閉めマスネ。マタ明日会いマショ、ごきげんヨォ」

* * *

 日が巡り、再び賭場が開かれる。何時もと変わらない薄暗い鉄製の小屋に、一癖も二癖もありそうな冒険者達が集まってくる。彼ら、彼女らを出迎えるのは、何時もとは少し方向性の違う衣装に身を包む部下の兎達だ。

「あ、姐御……」

 部下の一羽、ローが肩を小刻みに震わせながら、呻くように声を洩らした。体の震えに合わせ、股間から伸びた白鳥の頭が上下に揺れる。十羽の兎達はもれなく真っ白なバレリーナの衣装に身を包み、そして一様に股座からにょきりと鳥の長い首を生やしていた。

「姐御ぉおおおおお!」

「ァッハ、似合ってマスネ。プリティプリティ」

 血の涙を流さんばかりに声を振り絞る部下のリャンに対し、鼻髭付きの眼鏡にタキシード姿となったファニィはひらひらと手を振って宥める。
 ポケットに手を突っ込みながら入り口に向かい立つファニィは、にやにやと口元が緩んでしまうのを止められずにいた。リトリーがどんな顔をしてくれるのか楽しみでならない。実際の指令とは少々方向が違ってしまっていたが、細かいことは都合の良いときだけ考えないことにしておいた。

「BGMが用意出来ないんじゃあ、仕方ありマセンよナ」

「そうでやすね」

 呑気に言うファニィに対し、部下のキュウはがくりと肩を落としながら頷く。ドアの向こうには、昨日の蜜柑をお手玉よろしく遊びながら歩いてくるリトリーの姿が見えていた。

* * *

 鼻眼鏡の魔力か、今日のゲームは瞬く間に過ぎていった気がした。
 ファニィは今も仮装をしたまま、カウンター内の席に腰掛けて帳簿に参加者の持ち点を記入している。時折、「ベガネベガネー」と独り言を装ってみては、その駄洒落を考案してしまった男の肩が震える様を見て、小さく笑みを零した。
 リトリーは蜜柑を手にしたまま固まってしまっている。ヒゲダンスの代わりに披露したコント集団式早口言葉が相当にショックだったのかもしれない。

「えェと、コマは……ヒット、四。五点マイナ──」

 不意に、視界に影が落ちた。失点を記入している最中の手を止めて顔を上げる。
 目の前には蒼月樟葉が立っていた。何時もの軽い笑みではなく、思い詰めたような表情をしている。
 不思議に思ったファニィが首を傾げる合間に、細い肩が震え始めた。明るい色合いの碧眼が、段々と涙に濡れて滲んでいく。賭場を開いたときからの常連で頻繁に顔を合わせてもいるが、今までに見たどんな表情とも違う顔つきで押し黙っている。

「アー……クズハ?」

 眼鏡を持ち上げたファニィは、気遣うように少しだけトーンを落とした声で呼びかける。少しでもつつけば破裂してしまいそうに思えた。泣き出す直前の子供、正しくその臨界点という様子である。
 そういえば、樟葉もバツゲームを背負っていたのだった。演目は、真面目にラブソングの作詞をする。大抵何でもこなしてしまいそうな謎の熊男ですら逃げた難題だけに、やはり厳しかったのかもしれない。

「だ」

「だ?」

 駄目だったのか。言葉の先を予測し、なるべく咎めるような調子にならぬよう気を配って口を開く。いや、開きかけた。それよりも先に発せられた樟葉の声が、ファニィの言葉を制した。

「大好きだぁーーーーー!!!」

「ふもッふ!?」

 声だけでは足らず、満身の力を篭めただろう拳の一撃もが言葉を奪った。ずらしていた眼鏡が宙を舞い、硬い壁に当たってカツンと音を立てる。直後には、椅子から転げ落ちたファニィが床に身を打ちつける音も響く。
 三つの音が駆け巡った賭場は、それまで雑談の声で賑わっていたことが嘘のように静まり返る。

「姐御ォオオオオ!?」

「こンガキゃア!? 何してけつかッぶほ!」

 十羽の兎達が上司の身を案じ駆け寄ったり、樟葉に詰め寄ろうとし、叫んでいる途中に舌を噛んだ悲鳴が響き渡る。騒ぎに煽られたのか、賭場の空気も応じてざわつき始めた。

「あィった……急に何を──」

 ふらつきながら起き上がり、顰め面で苦情を言うよりも早く、樟葉が鉄製の床を強く蹴る。
 結局ファニィに見えたのは、泣きながら走り去っていく小さな背中だけだった。

* * *

修羅場──唐突に訪れた衝撃。

予想だにしない展開の連続に言葉を失う部下兎達。

「好きだと言うのなら誠意を見せろ」

「これ(拳)が誠意だ。痛い程に伝わっただろう?」

一歩も譲らぬ意地と意地のぶつかり合い。

この衝突がやがてとんでもない事態を招くことになろうとは──!

次回、ラビットファイトクラブII……竹原の身に一体何が!!!!


【じゃあの】

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